井戸水を口に含んだら、まるで「池の水を飲んだような土臭さ」を感じた経験はないでしょうか。あるいは、お風呂のお湯がカビ臭くて気分が悪い…。井戸水のカビ臭・土臭は「ジオスミン」と「2-MIB」という、湖や池でおなじみの臭い物質が原因です。実はこれ、井戸が「表層水」を引き込んでしまっているサインかもしれません。この記事では、原因と対策、そして京都市で実際に起きた事例まで、現場目線でまとめます。
井戸水のカビ臭・土臭の正体は「ジオスミン」と「2-MIB」
井戸水のカビ臭・土臭の正体は、ほぼ次の2つの物質に絞られます。
- ジオスミン(Geosmin):土の中の放線菌などが作り出す物質。雨上がりの土の臭い、そのものです
- 2-MIB(2-メチルイソボルネオール):藍藻類などが作り出す物質。湖や池の「カビっぽい臭い」の主犯
どちらも自然界に普通に存在する有機化合物で、井戸や湖沼などの「水」に溶け込みます。やっかいなのは、人間の鼻が異常に敏感に感じ取ってしまうこと。空気中で10ng/L(ナノグラム=10億分の1グラム)レベルの極わずかな濃度でもはっきり臭うのです。
つまり、井戸水に「ほんの微量」ジオスミンや2-MIBが混じっただけで、「これは飲みたくない」と感じてしまいます。逆に言えば、人間の鼻は水質チェッカーとしてかなり優秀な検知器でもあるのです。
健康面については、通常の井戸水に含まれる程度の濃度であれば、急性的な害はないとされています。ただし、水道水の水質基準では「ジオスミン10ng/L以下」「2-MIB 10ng/L以下」と明確に定められており、超えれば「水質基準違反」となる規制物質です。
京都市でも水道水で問題に|2024年8月の水質基準超過事案
「ジオスミンや2-MIBは特殊な現象でしょ?」と思われるかもしれませんが、実際には日本各地で水道水のカビ臭問題が定期的に発生しています。記憶に新しいのは、2024年(令和6年)8月、京都市の水道水でジェオスミンが水質基準を超過した事例です。
京都市が公表した資料(※1)によると、この事案の概要は次のとおりです。
- 原水のジェオスミン最大値:1,400 ng/L(8月17日)— 京都市の観測史上最大
- 溶解性ジェオスミン最大値:480 ng/L(8月19日)
- 水質基準超過期間:8月15日〜9月4日(給水栓水の基準10 ng/L超)
- 基準超過は平成16年度(2004年度)以来2回目
- 原因生物はDolichospermum minisporum(ドリコスペルマム属/旧アナベナ属)— 令和2年(2020年)夏に琵琶湖南湖で初めて観察された比較的新顔の藻類
京都市の水道水の多くは琵琶湖南湖を水源としており、夏場の高水温と栄養塩で藍藻類が一気に増殖します。この原因藻類は水温30℃以上でも増殖するのがやっかいで、近年の猛暑とは相性が悪い相手です。
京都市の浄水場では、原因物質を粉末活性炭(粉炭)で吸着する高度処理を行っていますが、2024年8月は粉炭の注入能力の上限を超えるレベルの高濃度ジェオスミンが流入したため、基準超過に至ったのが主因と説明されています。粉炭の使用量も近年は右肩上がりで、夏のカビ臭対策コストは年々増加傾向にあります。
これは何も京都市だけの問題ではなく、霞ヶ浦・諏訪湖・宍道湖など全国の湖沼を水源とする地域で同じことが起こり得ます。最新鋭の浄水場でも完全には防ぎきれない現象であり、温暖化とともに今後も注意が必要なトピックです。
※1 出典:京都市上下水道局「京都市上下水道局における令和6年度のかび臭発生状況とその対応について」(令和6年12月9日 水道における微生物問題検討会)
井戸水でも同じことが起こります
「うちは水道じゃなくて井戸水だから関係ない」と思うかもしれませんが、これはむしろ井戸水でこそ起きやすい問題です。井戸水は基本的に地下深くからの水ですが、井戸の構造や立地によっては、地表に近い水(表層水)が混入してしまうことがあります。
- 浅井戸で、雨水や周辺の池・河川水が流れ込んでくる
- 井戸ケーシング(井戸の側壁)が短く、地表近くから水が入ってきている
- 近隣に水田・調整池・農業用水路があり、その水が地下浸透して混ざる
こういった場合、井戸水に湖沼水と同じ「ジオスミン・2-MIB」が混じり、カビ臭・土臭の原因になります。夏〜初秋にかけて急に臭うようになった、雨が続いた後に臭いが強くなるといった症状があれば、表層水の混入を疑ってください。
井戸水にカビ臭・土臭が出る4つの主な原因
カビ臭・土臭の発生源として、現場でよく出会うパターンを4つ紹介します。
① 浅井戸への表層水混入(最も多い)
深さ10m前後の浅井戸では、雨水・水田の水・近隣の池や河川水が地下にしみ込み、井戸の中に混ざってしまうことがあります。地表の有機物(落葉・土・藻)由来のジオスミンや2-MIBが、地下水にそのまま乗ってくるイメージです。
とくに梅雨明け以降、地表の藻類や微生物が活発になる時期は、混入の影響が一気に出やすくなります。
② 周辺の池・水田・河川からの流入
井戸の近くに溜め池・調整池・水田・農業用水路がある場合、それらの水が地下浸透して井戸に流れ込むことがあります。これらの水には湖沼と同じくジオスミン・2-MIBが含まれていることが多く、井戸水のカビ臭の原因になります。
京都市の事例のように、表層水が水源側にある時点で、家庭の水が臭くなる可能性が出てきます。
③ 井戸周辺の有機物・藻類の繁殖
井戸の蓋まわり、ポンプ室、土間などに落葉や有機物が溜まったままになっていると、そこから雨水と一緒に有機物が井戸内に流れ込むことがあります。井戸の蓋がきちんと閉まっていない、隙間がある、というケースでは、虫や小動物が入り込んで内部で繁殖し、臭いの原因になることもあります。
④ 配管・受水槽内のバイオフィルム
井戸水自体は問題なくても、受水槽や配管の内壁にぬめり(バイオフィルム)が付着していると、そこで微生物が繁殖して臭いを発することがあります。「受水槽を10年以上掃除していない」という家庭では、ほぼ確実にこのパターンを疑った方がいいです。
定期的な受水槽清掃は、衛生面でも臭い対策でも必須のメンテナンスです。
自分でできる切り分けチェック
カビ臭・土臭の原因を絞り込むため、以下の観点でチェックしてみてください。
チェック1:雨の後に強くなるか
大雨や長雨の後で臭いが強くなるなら、表層水の混入が濃厚です。雨水が地下浸透して井戸に流れ込んでいる証拠です。
チェック2:夏〜初秋に強くなるか
気温が上がる7〜9月にかけて、急に臭いが強くなる場合は、藻類・微生物の活動が原因の可能性が高いです。冬になると自然と弱まることが多いのも特徴です。
チェック3:受水槽の蓋を開けて中を見る
受水槽の内壁にぬめりや藻が付着していたら、配管・受水槽側の問題。井戸水自体が原因なのか、貯めている過程で発生しているのかが切り分けられます。
チェック4:井戸の蓋・周辺をチェック
井戸の蓋がしっかり閉まっているか、周りに落葉や有機物が溜まっていないかを目視確認します。蓋の隙間や周辺の汚れは、表層水・有機物混入の入口になります。
井戸水のカビ臭・土臭を除去する対策
原因の特定ができたら、対策に進みます。家庭でできるレベルから本格的な処理まで順に紹介します。
活性炭ろ過:もっとも基本で効果が高い
ジオスミン・2-MIBの除去には、活性炭ろ過がもっとも一般的かつ確実な方法です。活性炭の表面に微小な穴が無数にあり、そこに臭い分子を物理的に吸着して取り除いてくれます。
家庭用なら、シンク下に取り付ける浄水器・蛇口直結タイプ・受水槽の出口に設置する据置型など、選択肢は豊富です。注意点として、活性炭は使うほど吸着能力が落ちます。半年〜1年ごとの交換が必要で、これを怠ると「最初は効いていたのに最近また臭う」状態になります。
オゾン処理:高濃度・業務用の対策
ジオスミン・2-MIBがかなり高濃度の場合は、オゾン処理が効果的です。オゾン(O₃)の強い酸化力で臭い物質を分解する方法で、京都市のような大規模浄水場でも導入されています。
ただし設備コストが高く、家庭レベルでの導入は現実的ではありません。法人や宿泊施設、給食施設のように大量の井戸水を飲用利用する事業者向けの選択肢です。
井戸の改修:根本対策
表層水の混入が原因の場合、井戸の構造改修が根本対策になります。
- ケーシング延長:井戸の側壁を地表近くまで延ばして、浅い層の水が入らないようにする
- シーリング処理:ケーシングと地層の隙間をモルタル等で塞ぎ、表層水の浸入を遮断
- 井戸の深掘り:そもそも井戸を深くして、表層水の影響を受けない地下水脈まで届かせる
いずれも井戸業者の工事が必要で、数十万円〜のコストがかかります。「毎年夏になると臭う」のがパターン化している場合は、対症療法(活性炭ろ過)よりも根本改修の方が長期的に楽です。
受水槽・配管の清掃
配管や受水槽内のバイオフィルムが原因の場合は、定期清掃が一番の対策です。受水槽は最低でも年1回、できれば年2回の清掃が推奨されます。専門業者に依頼すれば1回数万円程度から対応してもらえます。
プロに相談すべきサインとは
以下のサインがある場合は、自前で対策する前に専門業者へ相談してください。
- 活性炭の浄水器を入れても臭いが取り切れない
- 雨の後に強くなる、夏場に必ず臭くなる(=表層水混入の可能性大)
- 飲用に使いたいが、味や臭いに不安がある
- 井戸の構造(深さ・ケーシング)が不明、または古い井戸を相続したばかり
カビ臭・土臭は、単純に「ろ過機をつければ解決」とはいかない場合があります。井戸の構造や立地、季節変動を踏まえて、活性炭で対応するか、井戸自体を改修するかを判断する必要があります。
まずは水質分析でジオスミン・2-MIBの濃度を測ることから始めるのがおすすめです。数値が分かれば、活性炭で十分なのか、それ以上の処理が必要なのかが見えてきます。
あわせてどうぞ:井戸水が臭う原因を全体的にまとめた 「井戸水が臭い原因5種類|硫黄・土臭・ドブ臭の見分け方と正しい対策」 もぜひご覧ください。
まとめ
- 井戸水のカビ臭・土臭の正体は「ジオスミン」と「2-MIB」
- 2024年8月、京都市でも原水ジェオスミン1,400ng/Lを記録し、水道水が基準超過した
- 琵琶湖など湖沼を水源とする地域では夏場に同様の事象が起きやすい
- 井戸水の場合、浅井戸への表層水混入が最も多い原因
- 夏〜初秋に強くなる/雨の後に強くなるなら、表層水混入のサイン
- 対策は活性炭ろ過が基本。表層水が原因なら井戸の改修が根本解決
- 定期的な受水槽の清掃も忘れずに
井戸水のカビ臭は、放っておくと改善せず、むしろ夏になるたびに悪化していくケースが多いです。「今年はちょっと臭うかな」と感じた段階で、原因の切り分けと対策を始めるのが結局は一番楽です。判断に迷うときは、お気軽にご相談ください。
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