濁度が下がらない時の対策|繊維ろ過の濁度上昇、真犯人はPACだった

導入事例

濁度計の数字が、通水して1時間ほどでスーッと上がっていく。逆洗すればいったん収まるのに、また1時間で戻ってしまう。差圧も少しずつついてきている——。

こうなると、まず疑うのはろ過装置そのものだと思います。実際、私が相談を受けた現場でもそうでした。ですが結論から言うと、犯人はろ過装置ではありませんでした

対策を3つ空振りして、最後にたどり着いた原因までの道のりを、そのまま記録として残します。


繊維ろ過とはどんな装置か

まず前提として、今回の舞台になった繊維ろ過について簡単に説明します。

繊維ろ過は、名前のとおり繊維をろ材に使ったろ過装置です。特徴をひとことで言うと、コンパクトなのに大容量の処理ができること。ろ過能力が非常に高いので、

  • 設置スペースが限られている現場
  • 既存の凝集沈殿ろ過を置き換えたい現場

こういったケースの代替として、かなり有力な選択肢になります。凝集沈殿は沈殿池のスペースが必要ですが、繊維ろ過ならその面積を大きく圧縮できます。

逆洗(ろ過方向とは逆に水を流してろ材の汚れを落とす洗浄工程)は、空気と水を使って繊維を丸洗いするイメージです。砂ろ過のようにろ材をひっくり返すのではなく、繊維そのものを揉み洗いして汚れを剥がす。ここも繊維ろ過らしいところです。

そしてこの記事でいちばん大事な前提が、ここです。

繊維ろ過の仕事は「フロックを捕まえること」

濁質そのものを直接捕らえているのではなく、前段でフロック(凝集剤によって濁質が寄せ集められた塊)になったものを繊維でキャッチしています。この役割分担が、後半の話につながってきます。

💧 あわせてどうぞ:ろ過装置のメンテナンスは「今の業者しか無理」は本当か?コスト削減のヒント


起きたこと|通水1時間で濁度が急上昇、差圧は1か月前から

現場は、工業用水を繊維ろ過で処理して、冷却塔用水と製造用水をつくっている設備です。処理水の濁度はリアルタイムで監視していて、その数字で処理ができているかを判断しています。

系統はこうなっています。

工業用水→反応槽→繊維ろ過→水槽という系統図。反応槽の前にPAC・次亜の注入点があり、繊維ろ過に差圧計、その後段に濁度計が付いている。疑う順番は①薬注まわり②反応槽③繊維ろ過本体
濁度が落ちないときは、ろ過装置より「その前」から見る。今回の犯人は、いちばん左の PAC・次亜の注入点だった
  • 工業用水 → 反応槽 → 繊維ろ過 → 水槽
  • 反応槽の前で PAC(ポリ塩化アルミニウム/凝集剤)と次亜塩素酸ソーダを注入
  • 繊維ろ過の後に濁度計

お客さんからの相談内容は「濁度が上がってどうしようもない」。現地で確認した症状を整理すると、次のとおりでした。

  • 通水して1時間ほどで濁度が急激に上昇する
  • 同時に差圧も上がってくる
  • 逆洗直後は差圧がきれいに取れる。でも送水して1時間ほどでまた濁度が上がる
  • トレンドを遡ると、1か月ほど前から徐々に差圧がついてきていた

この「1か月前から」というのが、あとから効いてくるヒントでした。急に壊れたのではなく、じわじわ進行していた。つまりどこかで少しずつ悪化していた要素がある、ということです。


効かなかった対策3つ

現場では、疑わしいところから順に手を打っていきました。結果を先に書くと、3つとも空振りです。

対策① 逆洗を2連続でかける

まず考えるのはこれです。差圧がついていて、逆洗すれば一時的に取れる。なら洗い足りないのではないか、という発想ですね。

逆洗を2回連続でかけてみましたが、ほとんど変わりませんでした。

1回目でしっかり洗えていれば2回目の効果は薄い、という当たり前の結果とも言えます。ここで「洗浄不足ではない」ことがはっきりしました。

対策② 次亜の注入量を増やす

次に、次亜塩素酸ソーダの注入量を増やしてみました。有機物やスライムが悪さをしているなら、これで改善するはずです。

結果は変わらず。

そして、これは注意点でもあるのですが——繊維ろ過の場合、次亜は繊維を痛めます。 濃度が高い状態で使い続けると、ろ材である繊維そのものが劣化していきます。

「効くかもしれないから多めに入れておこう」は、繊維ろ過ではやらないほうがいい。ほどほどが鉄則です。効かなかったので元に戻しました。

対策③ 反応槽内の清掃

3つめは反応槽の清掃です。槽内に汚泥が溜まっていれば、それが巻き上がって下流に流れている可能性があります。

これも効きませんでした。

ここまでで打てる手は打った、という状態です。逆洗も薬品も清掃も試して、症状は何ひとつ変わっていない。正直、行き詰まりました。


真犯人はPAC|「入っているつもり」で規定量に達していなかった

最後の最後に出てきたのが、「PACがちゃんと注入できていないのでは?」という疑いでした。

薬注ポンプは動いている。タンクにPACも入っている。だから誰も疑っていなかった箇所です。それでも他に見るところがないので、注入配管を分解して清掃しました。

これで復活しました。

原因は、PACの注入点が固着して閉塞気味になっていたことでした。ここで重要なのは、まったく入っていなかったわけではないという点です。注入自体はできていた。ただ、規定量より少なかった

これがいちばんタチが悪いパターンです。完全に止まっていれば、濁度は劇的に悪化して誰でもすぐ気づきます。でも「少し足りない」だと、

  • 処理はある程度できてしまう
  • 症状はじわじわとしか出ない
  • 差圧が1か月かけて徐々についていく

という進み方をします。冒頭のトレンドで見えた「1か月前から徐々に」は、まさにこれだったわけです。

なお、PACは原液のまま使用していて、希釈はしていませんでした。それでも注入点は詰まります。PACは加水分解によって汚濁物を凝集させる薬品なので、その性質上、固形物(スラッジ)が発生することが知られています。注入点は原液と原水が最初に出会う場所ですから、析出物が育ちやすい条件が揃っている場所だと言えます。

薬注ポンプが動いていることと、規定量が入っていることは、別の話です。 ここを混同しないでください。


★プロの一捻り|濁度が落ちないとき、ろ過装置は犯人ではないことが多い

この現場で私がいちばん伝えたいのは、テクニックではなく疑う順番のほうです。

濁度が落ちないと、どうしても目はろ過装置に向きます。濁度計はろ過装置の後ろについていますし、「ろ過できていない=ろ過装置が悪い」と考えるのは自然な流れです。実際、私たちが最初に打った3つの対策のうち2つは、ろ過装置とその周辺への対処でした。

でも、思い出してください。

繊維ろ過の仕事は「フロックを捕まえること」

繊維は、フロックになったものを捕まえる装置です。裏を返せば、フロックになっていない細かい濁質は、捕まえようがないということです。

PACが足りなければ、濁質は十分な大きさのフロックに育ちません。育たないまま繊維に到達した微細な濁質は、

  • 繊維をすり抜けて処理水側に出る → 濁度が上がる
  • 一部は繊維の奥に入り込んで抜けにくくなる → 差圧が徐々に上がる

濁度と差圧が同時に悪化していたのは、これで説明がつきます。症状はろ過装置に出ていましたが、原因は上流にあった。

だから、濁度が落ちないときに見るべき順番はこうなります。

  1. 薬注まわり(PACは規定量入っているか)
  2. 反応槽(フロックはできているか)
  3. 繊維ろ過本体(逆洗は効いているか)

ろ過装置を開けるのは、いちばん最後でいいんです。

ちなみに、フロックができているかどうかは、反応槽をのぞいて目視で確認するのがいちばん早い方法です。ちゃんと効いていれば、肉眼で分かる大きさの塊が水中に見えます。透明なビーカーに汲んで数分置いてみるのも有効です。フロックが見えないなら、その時点で薬注を疑う根拠になります。


PACと次亜は役割が違う|混同すると遠回りになる

もうひとつ、この現場が教えてくれたことがあります。PACと次亜の役割を混同しない、ということです。

私たちは対策②で次亜を増やしました。あれは、いま振り返れば的外れでした。役割が違うからです。

薬品 役割 濁度への効き方
PAC(凝集剤) 濁質を寄せ集めてフロックにする 直接効く。濁度が落ちないときの本命
次亜塩素酸ソーダ 鉄などの酸化、有機物の消毒 間接的。増やしても濁度は下がらない

次亜の仕事は、鉄などを酸化させることと、有機物の消毒です。濁質をまとめる働きはありません。ですから、濁度が落ちないときに次亜を増やしても、基本的には効かないのです。しかも繊維を痛めるおまけ付きで。

PACは「増やせばいい」わけでもない

では、PACをたっぷり入れておけば安心かというと、そう単純でもないのが難しいところです。

PACを入れすぎると、アルミがリークします。 PACの主成分はアルミニウムなので、過剰に入れれば処理水側にアルミが出てきます。公的な資料でも、凝集pHが不適切だと凝集不良となり、濁質とともに懸濁態のアルミニウムがろ過水に漏出してくることが指摘されています。

つまりPACは、

  • 少ないと:フロックができず、濁度が抜ける
  • 多いと:アルミがリークする

という、上にも下にも失敗のある薬品です。だからこそ「規定量が正確に入っていること」が重要で、注入設備の管理がそのまま処理水質に直結します。

PACはめちゃくちゃ大事です。 これがこの現場の結論でした。


濁度が下がらないときのチェックリスト(保存版)

現場で上から順に確認していけるよう、手順をまとめました。

① 薬注まわり(最優先)

☐ PACのタンク残量を確認した
☐ 薬注ポンプが動作しているか確認した
注入点の固着・閉塞を確認した(分解して現物を見る)
☐ 実際の注入量が規定量どおりか確認した(ポンプが動く=規定量ではない)
☐ 注入配管に漏れ・詰まりがないか目視した

② 反応槽

☐ 反応槽をのぞいてフロックが目視できるか確認した
☐ 撹拌が効いているか確認した
☐ 槽内の汚泥堆積を確認した

③ 繊維ろ過本体

☐ 逆洗が正常に動作しているか確認した
☐ 逆洗の空気量・水量・時間が設定どおりか確認した
☐ 繊維の劣化・偏りがないか確認した

④ 記録・トレンド

☐ 差圧のトレンドを1か月以上さかのぼって見た
☐ 「いつから」悪化し始めたかを特定した
☐ 濁度と差圧の動きが連動しているか確認した

⑤ 進め方

☐ 一度に複数の手を打っていない
☐ ひとつ対応するたびに濁度・差圧を確認している
☐ 次亜を安易に増やしていない(繊維が痛みます)

④の「いつから」は、意外と軽視されがちですが強力な手がかりです。急に起きたのか、じわじわ進行したのかで、疑うべき原因の性格が変わります。今回のように1か月かけて進行しているなら、破損や故障ではなく「少しずつ悪化する要素」——今回で言えば注入点の固着——を探すべきだと分かります。


まとめ

濁度が下がらないときの考え方を、要点で整理します。

  • 繊維ろ過はフロックを捕まえる装置。フロックができていなければ、捕まえようがない
  • 濁度が落ちないときに疑う順番は、①薬注まわり → ②反応槽 → ③ろ過装置本体。ろ過装置は最後でいい
  • 薬注ポンプが動いていることと、規定量が入っていることは別の話。注入点の固着は外から見えない
  • PACは足りないと濁度が抜け、多すぎるとアルミがリークする。だから「正確に規定量」が要る
  • 次亜は濁度対策の薬品ではない。増やしても効かないうえ、繊維を痛める
  • 差圧のトレンドを遡り、「いつから」悪化したかを特定すると、原因の性格が読める

今回の現場は、対策を3つ空振りしたあとの最後の1手で解決しました。遠回りしたようですが、ひとつずつ潰していったからこそ原因が特定できたとも言えます。原因が分かれば、次からは注入点の点検を定期メニューに入れるだけで先回りできます。

トラブル対応のゴールは、直すことではなく、次に同じことを起こさない状態にすることです。

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