7月28日の地震から数日後、熊本へ行ってきました。目的は、お客さんのところの水処理設備がきちんと動いているかの確認です。ニュースでは断水戸数しか流れてきませんが、現場に立つと「何が止まって、何が生き残ったのか」がはっきり見えます。結論から言うと、市の水道は濁っていて、同じ場所の井戸は何ともなかった。 その差がどこから来たのかを書き残しておきます。
震度7の被災地へ|災害拠点病院で見た地震の爪あと
伺ったのは、熊本県内の災害拠点病院です。施設が特定されないよう、場所や名称はぼかして書きます。
建物に近づいてまず目に入ったのが、外壁でした。化粧壁が崩れ落ちている。ガラスも割れていて、壁際にはカラーコーンが並べられ、「近づかないでください」と囲われた状態になっていました。



災害拠点病院というのは、災害時に重症患者を受け入れる、地域の医療の最後の砦です。当然、耐震化の基準も一般の建物より厳しい。その建物ですら、外装はこうなる。倒壊したわけではないので構造としては持ちこたえているわけですが、それでも目の当たりにすると、揺れの凄まじさが体に来ます。
そして病院というのは、水を止められない施設の代表格でもあります。手術も、透析も、滅菌も、給食も、トイレも、全部水です。「建物が無事だったから診療を続けられる」わけではなく、水が来ていなければ結局は止まる。だからこそ、こういう施設ほど水源のことを真剣に考えなければいけない、といつも思っています。
市の水道は濁り、井戸は濁っていなかった
現地で確認したのは、まさにその水です。
市の水道は、濁っていました。 断水が解消して水が出るようになった地域でも、蛇口から出てくる水に濁りが残っている。
一方で、心配していた井戸のほうは拍子抜けするくらい何ともありませんでした。ポンプは問題なく動いていて、汲み上げた水にも濁りはなし。設備も正常稼働です。震度7クラスの揺れを受けた土地で、地下水だけがいつも通りの顔をしていました。
正直、行くまでは「井戸のほうこそ濁っているだろう」と身構えていました。地震で地層が揺さぶられれば、井戸水が濁るケースは実際にあります。ところが今回見た限りでは、濁りが長引いていたのは水道のほうだった。 この逆転が、今回いちばん現場で腹に落ちたことです。
💧 あわせてどうぞ:熊本地震・断水中の水の確保|井戸と水まわりの応急処置
なぜ水道の濁りは長引くのか|「何キロもの配管」という構造的な弱点
水道が濁ると、なかなか元に戻りません。これは水道が悪いのではなく、仕組み上そうなるという話です。
水道の水は、浄水場から皆さんの蛇口まで、何キロもの配管を旅してきます。その長い管の内側には、長年かけて溜まった鉄さびや堆積物がうっすら付いている。普段は水が一定方向にゆっくり流れているので、それらは静かに寝たままです。
そこに地震が来ると、管が揺さぶられ、断水と通水が繰り返され、流れの向きや速さがめちゃくちゃになります。寝ていたものが一斉に舞い上がる。しかも舞い上がった濁りは、その先の何キロもの配管を移動しながら、順番に各家庭の蛇口へ出ていくわけです。1軒で水を出し切っても終わりません。 管路全体がきれいになるまで、地域として濁りが続きます。
さらに今回は、あちこちで漏水が起きています。破損箇所を探しながらの復旧なので、通水と止水が何度も繰り返される。そのたびに濁りが動く。「出しても出しても濁る」が長引く理由は、ここにあります。
その点、井戸は圧倒的に経路が短い。地下から汲み上げて、その敷地の中で使う。長い管路を持たないということは、濁りの発生源になる管路も持たないということです。
★同じ井戸でも明暗が分かれた|深い井戸は強い、浅い井戸は濁る
ここが今回いちばんお伝えしたいところです。
「井戸は災害に強い」とよく言われますし、実際そのとおりでした。ただし正確に言うと、強かったのは深い井戸です。
私が直接確認したのは深い井戸のほうで、こちらは水質も水量も安定したまま。一方、現地では「10mくらいの浅い井戸では濁りが出ているらしい」という話を複数聞きました。 同じ地震を受けた同じ地域で、深さによって明暗が分かれているようです。
理由を考えると、納得のいく話です。浅い井戸が汲んでいるのは、地表から浸み込んだ水が溜まっている、地面に近い層(不圧地下水)です。地表に近いということは、揺れの影響も、地表からの濁り水の流れ込みも、直接受けやすい。雨が降ると濁る井戸があるのと同じ理屈で、地震でも濁ります。
対して深い井戸は、上を粘土層などに蓋をされた、地表から切り離された層(被圧地下水)から汲んでいます。そもそも地表の出来事が届きにくい。だから揺れても濁りにくいし、濁っても回復が早い。
業界では、おおむね10m程度までを浅井戸、30m以上を深井戸として扱います。今回の話に当てはめると、この境目がそのまま災害時の強さの差になって出た形です。
つまり「うちは井戸があるから災害でも安心」ではなく、「うちの井戸は何メートルか」で答えが変わるということです。ご自宅や施設の井戸の深さ、把握されていますか。井戸台帳や竣工図が残っていれば、そこに書いてあります。これは平時にしか調べられません。
そしてもうひとつ。深い井戸でも、停電すれば汲めません。 ここは井戸の弱点なので、そのまま正直に書いておきます。
💧 あわせてどうぞ:停電したら井戸ポンプは止まる|発電機の選び方と事前準備
重要施設につながる水道管の耐震化率、宇城市は4%という現実
現場の感覚だけでなく、数字のほうも見ておきます。
報道によると、災害拠点病院や避難所といった重要施設に接続する水道管の耐震化率は、国土交通省の2024年度末の調査で全国平均が32%。今回大きな被害を受けた地域では、八代市が29%、上天草市が6%、そして震度7を観測した宇城市は4%にとどまっていたと報じられています。
断水は一時10万8000戸を超え、7月31日の時点でも県内10市町で約7万9100戸が続いていました。
この数字の意味するところは重いです。病院や避難所に「つながっている管」自体が、まだほとんど耐震化されていない。 つまり、施設側がどれだけ立派に耐震化しても、道路の下の管が抜ければ水は来ないということです。
しかも耐震化が進まない理由は、自治体の怠慢というより、財政と資材費・人件費の高騰という構造的な問題です。だとすれば、この状況が数年で劇的に改善するとは考えにくい。
だから私は、施設側で水源を持つ意味があると考えています。市の水道は当然使う。そのうえで、井戸という別系統をもう1本持っておく。どちらか一方に全部を預けない、という発想です。
病院・工場・福祉施設で「水が止まったらどうするか」を検討されている方は、法人・施設のお客様へ もあわせてご覧ください。
お客さんの言葉|「立ってられず座った。座っても倒れた」
現地でお客さんと話した内容も、そのまま残しておきます。
「今回はやばかった。畑におったけど、立ってられずに座った。座っても倒れてしまうほどやった」
畑という、いちばん転ぶものがない場所で、座っていても倒れる。震度7というのはそういう揺れなんだと、報道の映像より生々しく伝わってきました。
「自宅には嫁もおったけど、なんとか無事やった。でも電気が1日止まって、冷蔵庫の中がやられた」
「車も数メートル横に移動したよー」
車が数メートル横に動く。にわかには想像しにくいですが、実際にそうなっています。
そして注目してほしいのが、電気が1日止まったというところです。冷蔵庫の中身がだめになった、で済んでいるのは自宅の話だからで、これが井戸なら1日ポンプが止まったということになります。断水対策として井戸を考えるなら、停電対策とセットでないと片手落ちです。今回の現地でも、それを改めて感じました。
これから現地へ向かう方へ|松橋インター出口の並び方
最後に実務的な話をひとつ。8月1日時点の情報です。
九州道の松橋インター出口は、かなり渋滞しています。 出口は2車線あるので、急いでいないのであれば左側に並んでください。
右側は、医療関係の車両や災害救助の車両が通れるように空けておくのがいいと思います。誰かが決めたルールではありませんが、支援に入る車が1台でも早く着けるなら、それだけの意味があります。私はそうしました。
現地へ入られる方は、燃料と飲み水は現地調達にしないこと、これも合わせてお願いします。被災地の物資を消費しないのが基本です。
まとめ
- 熊本県内の災害拠点病院では、外壁の化粧壁が崩れ、ガラスが割れて立入規制がかかっていた
- 市の水道は濁っていたが、同じ場所の井戸は濁りもなく正常稼働していた
- 水道の濁りが長引くのは、何キロもの配管に堆積物があり、通水のたびに濁りが管路を移動していくため
- 井戸なら安心、ではない。強いのは深い井戸(目安として30m以上)。 10mくらいの浅い井戸では濁りが出ていると現地で聞いた
- 重要施設につながる水道管の耐震化率は全国平均32%、宇城市は4%(国交省2024年度末調査/報道による)
- 井戸は断水に強いが停電には弱い。 発電機まで含めて備えて初めて水源になる
「災害に強い水源がほしい」と考えるなら、まず自分のところの井戸が何メートルで、停電時にどう回すのかを確かめてください。今できる備えは、そこからです。
被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く、蛇口から普通に水が出る日が戻ることを願っています。
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