「最近、ろ過の水量が出ない」「水槽の水位の戻りが遅い」——設備担当の方から、いちばん多く相談をいただく症状です。
このとき多いのが、いきなりろ過装置を開けてしまうパターン。実際には装置が原因ではないことも多く、開けた分だけ復旧が遅れます。この記事では、井戸から水槽までを上流から順番に切り分けていく手順を、現場でやっている通りの順番でまとめました。

最初にやるのは、装置を開けることではなく「フローを書き出す」こと
流量トラブルの相談を受けたとき、私が最初にやるのは現場の系統図(フロー)を紙に書き出すことです。
というのも、「ろ過流量が下がった」という同じ言葉でも、設備の構成によって見るべき場所がまったく違うからです。よくあるのは次の2パターン。
パターンA
井戸 → ろ過装置 → 水槽
パターンB
井戸 → ろ過装置 → フィルター → 水槽
Bのようにろ過装置の後段にフィルターが入っている構成だと、見る箇所がひとつ増えます。逆に、フローを把握しないまま装置だけ疑うと、後段のフィルターが詰まっているのに何時間もろ過装置とにらめっこする、ということが起きます。
図面が手元になければ、現場を一周して実際の配管を目で追いながら書くのがいちばん確実です。図面と現物が違っている現場も珍しくありません。増設や改造が重なった古い設備ほど、この作業に意味があります。
そしてもうひとつ。この系統図には出てこないけれど、配管の途中に入っている機器も忘れずに書き込んでください。とくにY型ストレーナー。これが後で効いてきます。
フローが書けたら、あとは上流から順に潰していきます。
起点を疑う|井戸そのものの能力は落ちていないか
いちばん上流、つまり水源である井戸から確認します。ここが落ちていたら、下流で何をやっても流量は戻りません。
見るのは主に2つです。
- 揚水量:ポンプの吐出量が以前と比べて落ちていないか
- 水位:井戸の水位(静水位・動水位)が下がっていないか
井戸の能力低下には、季節変動のような一時的なものと、経年による本格的なものがあります。夏場に一時的に落ちる「夏枯れ」なら様子見でよいケースもありますが、年間を通じてじわじわ落ちているなら、井戸内部にスケールや砂が溜まっている可能性があります。
現場の判断ラインとしては、揚水量が新設時から30%落ちたら浚渫(しゅんせつ)を検討、というのが目安です。井戸の能力低下の見極め方と回復のさせ方は、別記事で詳しく書いています。
💧 あわせてどうぞ:井戸の浚渫はいつやる?揚水量30%低下が判断ライン
なお、ポンプ自体の劣化(インペラの摩耗、軸受けの不調など)でも同じ症状が出ます。井戸が原因か、ポンプが原因かは、水位を実測して切り分けます。水位は正常なのに揚水量だけ落ちているなら、井戸ではなくポンプ側です。
見落とされがちな盲点|Y型ストレーナーの詰まり
井戸とろ過装置を確認したら、次は配管そのものに目を向けます。ここに、いちばん見落とされる犯人がいます。
Y型ストレーナーは、配管の途中に入っている「Y」の字の形をしたゴミ取り装置です。内部の金網(メッシュ)で砂やサビ、配管の破片などを受け止め、下流のろ過装置やバルブを守っています。

そもそも「あること」に気づかれていない
このY型ストレーナー、系統図に描かれる主役の機器(井戸・ろ過装置・水槽)と違って、配管にくっついているだけの存在です。パッと見は配管の一部にしか見えないので、
- そこに機器があると認識されていない
- 保温されているとほぼ見えない。保温材を巻かれてしまうと、配管とまったく見分けがつかなくなります
- 図面には載っていても、現場で誰も触ったことがない
というケースが本当に多い。「うちの設備にストレーナーなんて付いてましたか?」と聞かれることも珍しくありません。付いています。たいてい、ポンプの下流やろ過装置の手前あたりに。
しかも詰まっても水はゼロにならず、「なんとなく出が悪い」状態がじわじわ続くので、症状からも気づきにくい。存在も見えない、症状も鈍い。だから原因究明のリストから漏れます。
対処は「蓋を外してメッシュを洗う」だけ
やることはシンプルで、蓋(キャップ)を外して中のメッシュを取り出し、洗浄して戻す。これだけです。
「ろ過装置がおかしい」と呼ばれた現場で、結局この作業だけで流量が戻った、ということが何度もありました。数十分で終わる作業です。ろ過装置を開ける前に、必ずここを見る価値があります。
作業するときのポイントは3つ。
- 上流側のバルブを閉めてから開ける。当然ですが、開けると水を浴びます
- メッシュが変形・破れていたら交換する。破れたまま戻すと、下流に異物が素通りします
- 詰まっていた中身をよく見る。砂なのか、赤サビなのか、白いスケールなのかで、上流で何が起きているかが分かります
最後の点は意外と大事です。砂が大量に出ていれば井戸のスクリーンや砂分離器を疑いますし、赤サビが多ければ配管の腐食が進んでいるサイン。掃除して終わりにせず、「なぜ詰まったのか」まで見ておくと、次のトラブルが読めます。
なお、保温されている場合は保温材を切り開く必要があるので、点検できるように保温を巻き直しておくと次から楽になります。ここを開けられる状態にしておくかどうかで、次回の対応時間がまるで変わります。
ろ過装置は「入口圧」と「出口圧」の出方で読む
ここまで来て、いよいよろ過装置です。ただしここでも、いきなり開けるのではなく圧力計を読むのが先です。
ろ過装置には通常、入口側と出口側に圧力計が付いています。この2つの数字の出方で、詰まっている場所の当たりがつきます。
| ろ過装置の入口圧 | ろ過装置の出口圧 | 疑うところ |
|---|---|---|
| 上がっている ▲ | 下がっている ▼ | ろ過装置の中が目詰まり。逆洗・ろ材を点検 |
| 下がっている ▼ | 下がっている ▼ | 上流側(井戸・ポンプ・ストレーナー) |
| 平常どおり | 平常どおり | ろ過装置は白。後段のフィルター・配管・バルブを疑う |
考え方はシンプルで、入口と出口の差(差圧)が広がっていれば、その間で抵抗が増えているということです。ろ過装置の中で言えば、ろ材の目詰まり、ろ材の固結、あるいは表面に泥やスライムの層ができている状態が考えられます。
逆に、入口も出口も両方下がっているなら、装置に入ってくる水そのものが減っています。この場合、いくら逆洗をかけても流量は戻りません。上流に戻って井戸とストレーナーの確認をやり直します。
判断は「平常時の値」との比較で行う
ここが重要なところです。「差圧が何MPa以上なら詰まり」という絶対的な基準はありません。ろ材の種類、装置のサイズ、通水量、配管の構成によって、正常な数値がまったく違うからです。
だから判断は、その設備の平常時の値と比べてどうかでやります。裏を返すと、
- 立ち上げ直後(正常な状態)の入口圧・出口圧を記録しておく
- 日常点検で圧力を記録し続ける
この2つをやっていない設備は、トラブルが起きたときに比較対象がなく、切り分けが一気に難しくなります。日報に圧力欄がない現場は、今日から追加することをおすすめします。5秒の記録が、後日の半日の調査を省きます。
フィルターがある構成では、フィルターの前後も追う
ろ過装置の後段にカートリッジフィルターなどが入っている構成(パターンB)では、フィルターの前後の圧力も確認します。
ろ過装置の出口圧=フィルターの入口圧、と考えると分かりやすいです。
- ろ過装置の入口・出口は平常どおり、なのに流量が出ない → フィルター側が詰まっている
- ろ過装置の出口圧は正常だが、フィルターの出口圧が落ちている → フィルターで抵抗が増えている
フィルターは消耗品なので、詰まったら交換すればよく、対応そのものは簡単です。問題は「なぜ想定より早く詰まったのか」のほう。
前段のろ過装置が本来の性能を出せていないと、取りきれなかった濁質がフィルターに集中し、交換頻度が跳ね上がります。フィルターの交換サイクルが以前より短くなっているなら、それはフィルターの問題ではなく、ろ過装置からの黄信号です。
交換したフィルターの汚れ方も見ておいてください。全体が均一に汚れているのか、赤茶色(鉄)なのか、黒っぽい(マンガン)のか。前段の処理で何が抜けきっていないかのヒントになります。
💧 あわせてどうぞ:ろ過装置のメンテナンスは「今の業者しか無理」は本当か?コスト削減のヒント
一度に直そうとしない。ちょっとずつ切り分ける
ここまで手順を書いてきましたが、この記事でいちばん伝えたいのは、実はテクニックではなく進め方のほうです。
流量が落ちて焦っていると、どうしてもこうなります。
「とりあえず逆洗して、ストレーナーも掃除して、ついでにフィルターも替えて、バルブも開け直そう」
気持ちはよく分かります。早く直したいですから。でも、これをやると流量が戻っても、何が原因だったのか永遠に分からないのです。
そうすると次に同じ症状が出たときも、また全部やることになります。半年後にまた同じことをやり、また分からない。これを繰り返している現場を、私はいくつも見てきました。
だから、ちょっとずつ切り分ける。
- ひとつ手を打つ
- 流量・圧力を確認する
- 変わらなければ次へ
この繰り返しです。遠回りに見えて、これがいちばん速いですし、何より原因が特定できる。原因が分かれば、次からは点検周期で先回りできます。「ストレーナーが3か月で詰まる設備だ」と分かっていれば、詰まる前に開ければいいだけの話になります。
トラブル対応は、直すことがゴールではありません。次に同じことを起こさない状態にするのがゴールです。切り分けを飛ばすと、そこにたどり着けません。
切り分けチェックリスト(保存版)
現場で上から順に確認していけるよう、手順をリストにまとめました。
① フローを確認する
☐ 井戸から水槽までの系統を書き出した
☐ 図面と現物が一致しているか目で追って確認した
☐ 後段にフィルターがある構成かどうか把握した
② 井戸(上流)を確認する
☐ 揚水量は平常時と比べてどうか
☐ 水位(静水位・動水位)は下がっていないか
☐ 水位は正常なのに揚水量だけ落ちている場合はポンプを疑う
③ Y型ストレーナーを確認する
☐ 配管上にY型ストレーナーが付いていないか探した(保温の中も要確認)
☐ 蓋を外してメッシュの詰まりを確認・洗浄した
☐ メッシュの破れ・変形がないか見た
☐ 詰まっていた中身(砂・赤サビ・スケール)を確認した
④ ろ過装置を確認する
☐ 入口圧を平常時の値と比較した
☐ 出口圧を平常時の値と比較した
☐ 入口▲・出口▼なら装置内部、両方▼なら上流に戻る
⑤ フィルターを確認する(ある場合)
☐ 前後の圧力差を確認した
☐ 交換サイクルが以前より短くなっていないか
☐ 使用済みフィルターの汚れ方を見た
⑥ 進め方
☐ 一度にまとめて手を打っていない
☐ ひとつ対応するたびに流量・圧力を確認している
☐ 判明した原因と対処を記録に残した
まとめ
ろ過流量が下がったときの切り分けについて、要点を整理します。
- 装置を開ける前に、まずフロー(系統)を書き出す。構成によって見る場所が変わる
- 上流から順に:井戸の能力 → 配管上のY型ストレーナー → ろ過装置 → フィルター
- Y型ストレーナーは配管に埋もれていて存在ごと見落とされる。保温されていればなおさら。蓋を外してメッシュを洗う
- ろ過装置は入口圧と出口圧の出方で当たりをつける。入口▲・出口▼なら装置内部の目詰まり
- 判断はすべて平常時の記録との比較。だから日常の圧力記録が効いてくる
- 一度に直そうとしない。ひとつずつ手を打って確認するのが、結局いちばん速い
流量トラブルは、慌てて手数を増やすほど原因が見えなくなります。上流から一段ずつ。これだけで、復旧までの時間も、次回の再発率も大きく変わります。
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