新工場の建設計画が動き出すと、建屋・生産設備・電気には皆さん熱心に検討を重ねます。ところが「水」だけは、なぜか「上水道を引いておけばいい」で終わってしまうことがほとんどです。
実はここが一番もったいないポイント。私が実際に提案して受注した新工場の案件では、設計段階で工業用水を組み込んだことで、年間約150万円の水道コスト削減とBCP対策を同時に実現しました。この記事では、その提案の中身をそのままお見せします。
水源の選択は、稼働してからでは遅い
工場が稼働してから「水道代が高い、なんとかならないか」という相談は本当に多いです。もちろん後からでも打てる手はあります。ただ、既存工場の場合は配管の引き直し・受水槽の増設・生産を止めない工事計画など、制約との戦いになります。
一方、新工場の建設時なら白紙から設計できる。工業用水の引き込みルートも、受水槽の配置も、系統ごとの配管も、最初から図面に織り込めます。同じ設備を入れるにしても、後付けと新設ではコストがまるで違います。
だからこそ、水源の検討は建設計画の初期、それこそ土地選定の段階から始めるべきなんです。
まず確認すべきは「工水管があるか・口径は足りるか」
工業用水が使えるかどうかは、立地でほぼ決まります。チェックポイントは2つ。
- 敷地の近くに工業用水道の管(工水管)が通っているか
- その工水管の配管口径が、自社の必要水量に対して足りているか
管が近くまで来ていても、口径が細ければ必要な水量を取れないことがあります。逆に、少し離れていても引き込み工事費と削減額を天秤にかければ十分ペイするケースもあります。ここは候補地の比較段階で、自治体の工業用水担当に確認しておきたいところです。
水を3系統に分ける、という考え方
工業用水は原水を沈でん処理しただけの水で、上水道のような塩素処理・ろ過処理はされていません。そのまま飲むことはできませんが、料金は上水道より大幅に安い。
つまり「水質が必要なところにだけ、水質のいい(=高い)水を使う」のが最適解です。私が受注した提案では、工場内の水をこう3系統に分けました。
① 工業用水をそのまま使う系統
水質を問わない用途には、工業用水を無処理でそのまま使います。この案件では排水の希釈水に充てました。ほかにも冷却塔の補給水、床洗浄、散水、トイレ洗浄水など、「触れない・飲まない・製品に入らない」用途はすべて候補になります。
一番安い水を、一番量を使うところに。ここがコスト削減の主戦場です。
② 工業用水をろ過して飲料水レベルにした系統
製品に入る水、つまり製造用水には、工業用水を膜ろ過などで処理して、水道法の水質基準(全52項目)をクリアするレベルまで仕上げた水を使います。
「工業用水を製造に使って大丈夫なのか?」と不安に思われるかもしれませんが、適切な処理設備を通せば上水道と同等以上の水質を確保できます。処理コストを乗せても、上水道をそのまま使うより安くつくのがポイントです。
③ 上水道は事務所用+バックアップに
上水道は引かない、のではありません。事務所の飲料水など少量の用途に絞って使い、同時にバックアップ水源として確保しておきます。
普段の使用量を絞れば上水道料金は最小限。それでいて、工業用水側にトラブルがあったときの保険は残る。この「攻めと守りの両立」が3系統設計の肝です。
年間150万円削減と、BCPが「ついてくる」理由
この設計にすると、水道コストは用途ごとに最適化されます。大量に使う希釈水は最安の生の工業用水、製造用水はろ過した工業用水、上水はごく少量。結果、この案件では年間約150万円の削減につながりました。
そしてもうひとつ、見逃せないのがBCP(事業継続計画)の効果です。
水源が上水道だけの工場は、断水すればその瞬間に生産が止まります。ところが3系統設計なら、工業用水と上水道という別ルートの水源を2つ持つ「二元給水」の状態になります。
- 上水道が断水しても → 工業用水系統で製造用水・雑用水は確保できる
- 工業用水が止まっても → 上水道をバックアップに回して最低限の操業を守れる
コスト削減のための設計が、そのまま災害対策になる。新工場でこれをやらない手はない、というのが私の実感です。
★プロの一捻り:工業用水のルールは自治体ごとに違う
ここが競合他社の記事ではほとんど触れられていない、現場で一番効いてくる話です。
工業用水道は自治体(市や県)ごとの条例・運用で動いているため、料金体系も、上水道との併用条件も、地域によってまったく違います。
例えば私が神戸市で協議した案件では、「上水道をバックアップとして使うなら、全体の使用水量のうち一定割合(この案件では約34%)は普段から上水道で使うこと」という条件が付きました。「普段は工業用水だけ使って、いざという時だけ上水を使う」という虫のいい設計は認められなかったわけです。
こうした条件は自治体のホームページに全部書いてあるわけではなく、事前協議のテーブルで初めて見えてくることが多い。だからこそ、教科書どおりの設計をコピーするのではなく、その自治体・その工場の使用水量に合わせてオーダーメイドで提案を組み立てるのがプロの仕事です。水量バランスひとつで、削減額も認可の可否も変わります。
まとめ
- 新工場の水は「上水を引くだけ」ではもったいない。設計段階なら白紙から最適化できる
- 工業用水の可否は工水管の有無と配管口径で決まる。土地選定段階で確認を
- 水は3系統で設計する:①工業用水そのまま(希釈水・雑用水)②工業用水を飲料化(製造用水)③上水道(事務所+バックアップ)
- この設計で年間約150万円の削減とBCP(二元給水)を同時に実現した実例がある
- 併用条件や料金は自治体ごとに違う。事前協議を踏まえたオーダーメイド設計が必須
既存工場でも工業用水の引き込みで削減できた事例があります。詳しくは工業用水の引き込みで年間300万円削減|九州・食品工場の導入事例も参考にしてください。また、水道料金だけでなく下水道料金にも削減の余地があります。下水道料金、年間で数百万払っていませんか?削減できる3つの着眼点もあわせてどうぞ。
この記事を読んだ方へ
▼ 個人・井戸に興味がある方
井戸水ってそのまま飲める?水処理のプロが安全性と判断基準を本音で解説
▼ 法人・施設のご担当者様
新工場の水源設計・工業用水の引き込み・水道コスト削減のご相談は、法人・施設のお客様へからお気軽にどうぞ。計画の初期段階ほど打てる手が多くなります。

