純水装置の蒸気、本当に要りますか?水質分析から見つけた原単位10%改善

コスト削減

工場の省エネというと、たいてい「装置を新しくする」「熱回収を入れる」といった投資の話になります。でも現場を回っていると、設備は今のままで、運転条件をひとつ外すだけでコストが落ちるケースにときどき出会います。

今回は、川から水を引いて純水を作っている大手化学工場での実例です。純水設備の提案に行ったはずが、最終的に手を付けたのは水ではなく蒸気でした。結果、原単位は10%良化しています。


川から取水して純水を作る、昔ながらの工場

まず前提から。この工場は、川から直接水を引いて工業用水として使っています。

これは正直、真似できません。昔から持っている水利権があってこその話で、今から「うちも川から引きたい」と言って通るものではないからです。だからこの記事は「川から取水しましょう」という提案ではありません。ここは背景として押さえておいてください。

その水を原水にして純水を作り、化学製品の製造に使っている。設備は昔ながらのもので、純水の作り方も当時のままです。

こういう工場、実はかなり多いです。動いているものを止める理由がないので、20年30年と同じフローで回っている。それ自体が悪いわけではありませんが、「今の原水」に対して最適かどうかは、誰も検証していないことがほとんどです。


提案がズレていた|お客さんのニーズは「原単位」だった

こちらは当初、純水の作り方そのものを変える提案を持っていきました。設備を刷新すれば効率は上がる、という筋の話です。

ところが反応が鈍い。純水の製造方法を抜本的に変えるというのは、製品品質に直結する部分に手を入れるということなので、お客さん側としてはかなりハードルが高いわけです。冒険をしたくない。

リスクの先にリターンがあるのに——と思いながら提案するのですが、これは提案する側の理屈です。工場の担当者からすれば、製造ラインを止めるリスクと天秤にかけたら、そりゃ動きません。この判断自体は理解できます。

そこで改めて話を聞くと、お客さんが本当に求めていたのは「原単位を下げること」でした。純水の品質を上げたいわけでも、装置を新しくしたいわけでもない。製品1単位を作るのにかかるコストを削りたい、それだけです。

ここが分かった時点で、提案の方向がまるごと変わりました。純水の作り方を変えなくても、原単位が下がればいい。それなら手はあります。


まずフローを全部確認させてもらう

提案を組み直すために、まず現状のフローを一から確認させてもらいました。図面ではなく、実際に何がどう繋がっているかを追う作業です。

川から取水→砂ろ過→混床式イオン交換→水槽→工場のユースポイントという純水設備のフロー図と、イオン交換樹脂の再生に使われている蒸気の位置
水の流れだけを追うと、蒸気は視界から外れる。この設備で蒸気が使われていたのは、イオン交換樹脂の再生(シリカ除去)だった

川から取水 → 砂ろ過 → 混床式イオン交換 → 水槽 → 工場のユースポイント。水の流れだけを見れば、ごくシンプルな構成です。

※混床式イオン交換=陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を1つの塔に混ぜて充填し、まとめてイオンを除去する方式です。

あわせて、原水の水質分析表も見せてもらいます。ここが今回の分かれ道になりました。

フロー確認のときに必ず見るのは、水の流れそのものだけではありません。その設備を動かすために、水以外に何を使っているかです。電気、薬品、そして蒸気。水の流れだけ追っていると、ここが視界から外れます。

💧 あわせてどうぞ:井戸水から純水を作るには?水質で変わるRO・イオン交換樹脂の使い分け


目を付けたのは水ではなく「蒸気」

フローを追っていて引っかかったのが、蒸気でした。

この工場では蒸気を使っている。ではどこで使っているのか——たどっていくと、イオン交換樹脂の再生に使われていました。

イオン交換樹脂は使い続けるとイオンを捕まえる能力が飽和するので、薬品を通して能力を戻す「再生」という作業が必要になります。このとき、再生に使う水(再生液)を蒸気で温めているわけです。

では、なぜわざわざ温めるのか。目的はシリカの除去です。

シリカは樹脂に強く吸着する厄介な成分で、常温の薬品ではなかなか剥がれてくれません。そこで再生液を温めることで、シリカを樹脂から剥がれやすくする。これが温めて再生する(温再生)ことの狙いです。

この考え方自体は水処理の世界では定石で、公開されている技術資料でも、温めた苛性ソーダを使うのはシリカ除去効率のためで、シリカ以外の陰イオンは常温の薬品でも十分に脱着できるとされています。つまり、温める理由はほぼシリカ一点に集約されるわけです。

ここまで整理できると、次に確認すべきことは自動的に決まります。


原水にシリカが出ていなかった

改めて原水の水質分析表を見ます。すると——シリカがあまり出ていない

これが今回の答えでした。

シリカを剥がすために蒸気で温めているのに、そもそも剥がすべきシリカが原水にほとんど入っていない。つまり、この工場の再生工程では、蒸気が「効いていない仕事」に使われ続けていたということになります。

であれば、蒸気再生をやめられます。やめれば、そのぶんの蒸気使用量がまるごと消える。蒸気を作るには燃料が要りますから、燃料費が落ちる。結果として原単位が良くなる。

実際に採用いただき、原単位は10%良化しました。設備は1台も入れ替えていません。運転条件をひとつ外しただけです。

投資ゼロで10%というのは、装置更新型の省エネ提案ではまず出てこない数字です。狙って出したというより、「その現場の原水」に合っていない条件が長年放置されていたから、これだけの伸びしろが残っていたということでもあります。


★プロの一捻り|メーカーは「一般的な再生」でしか売れない

ここで一つ、誤解されがちな点を書いておきます。

「なぜ設備メーカーがこれを提案してくれなかったのか」と思われるかもしれません。でもこれは、メーカーが怠けているわけではありません。メーカーの立場では、一般的な再生条件でしか販売できないのです。

理由はシンプルで、メーカーはリスクを取れないからです。カタログに載っている標準的な再生条件は、どんな原水が来ても失敗しないように設計されています。シリカが多い原水でも、季節で水質が振れても、とりあえず所定の水質が出る。そういう「安全側」の設定です。

これは製品として正しい。けれど裏を返すと、シリカがほとんど出ない原水の工場にとっては、その条件は過剰だということです。使わなくていい蒸気を、保険料として払い続けている状態になります。

そして、その「過剰かどうか」を判断するには、カタログではなくその工場の水質分析表を見るしかありません。メーカーは全国の標準を売り、現場の個別解は誰も見ていない。ここに隙間が生まれます。

剥がすべきは設備ではなく、前提条件のほうだった——今回の案件を一言でまとめるなら、これに尽きます。


現場を見ないと、この提案は出てこない

改めて振り返ると、今回やったことは大きく3つだけです。

  1. お客さんが本当に困っていること(原単位)を聞き直した
  2. フローと、水以外に使っているユーティリティ(蒸気)を突き合わせた
  3. 原水の水質分析表で、その条件が今も必要かを検証した

どれも特別な技術ではありません。ただ、この3つを同時にやる人がなかなかいない、というだけの話です。設備屋さんは設備を見ますし、省エネの担当者は熱を見ます。水質分析表と再生条件とユーティリティを一枚の絵にして見る人は、意外と少ないんです。

私(みずお)の強みは、この積み重ねた経験値です。16年この業界にいて、100件以上の現場を見てきたので、フローを見せてもらった瞬間に「ここ、たぶん要らない」と引っかかるポイントが分かります。だからこういう相談を受けたときに、具体的な提案ができます。

そしてもう一つ。工場の水コストを本気で削るなら、取水側だけでなく排水側も同時に見るべきです。取水した水の全量が下水道に流れているわけではありません。蒸発した分、製品に含まれて出荷された分は下水に行っていない。この差分は、申請すれば下水道料金から差し引ける可能性があります(減量認定)。取水量=下水量として請求され続けている工場は、かなりあります。

💧 あわせてどうぞ:下水道料金の減量認定とは?申請の流れと失敗しない5つのポイント


まとめ

  • 川から取水する大手化学工場で、純水設備の提案から入って原単位10%良化を実現した事例
  • お客さんのニーズは「純水の品質」ではなく「原単位」だった。提案の前に要望の本丸を聞き直す
  • フロー確認では、水の流れだけでなく水以外に使っているユーティリティ(蒸気・薬品・電気)を必ず見る
  • 蒸気再生の目的はシリカ除去。原水にシリカが少なければ、その蒸気は効いていない仕事に使われている
  • メーカーの標準再生条件は「どんな原水でも失敗しない」安全設計。その現場の原水に対しては過剰なことがある
  • 設備を入れ替えなくても、運転条件の見直しだけでコストが落ちるケースは実在する

※ 本記事の原単位改善効果は当該工場での実績です。再生条件の変更可否は原水水質・要求水質・樹脂の状態によって変わります。原水にシリカが含まれる現場で蒸気再生をやめると処理水質が悪化しますので、必ず水質分析にもとづいて判断してください。

「うちの純水設備も昔のままだけど、見直す余地はあるだろうか」——そう思われたら、まずはフロー図と原水の水質分析表をご用意ください。この2つがあれば、削減余地があるかどうかの当たりは付けられます。


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