受水槽の管理というと、多くの施設で「年1回の清掃と法定検査」がすべてになっています。ただ、実際に断水騒ぎを起こすのは槽の中ではなく、水が入ってくる手前であることが多いです。設置から20年経った現場で流入量が足りなくなった実例をもとに、受水槽まわりで何を見ておくべきかを整理します。

受水槽とは|半日で空になる前提でつくられている
受水槽は、水道本管から引き込んだ水を一度貯めておくタンクです。マンション、工場、病院、学校など、一気に大量の水を使う施設にはたいてい設置されています。本管から直接引くだけでは、ピーク時に水圧が足りなかったり、周辺の配水管に迷惑をかけてしまうためです。
意外と知られていないのが、受水槽が「使い切る前提」で設計されているという点です。各自治体の給水装置工事施工基準では、受水槽の有効容量は計画一日使用水量の4/10〜6/10程度が標準とされています。つまり1日分は貯めていない。ざっくり半日で空になる容量です。
これは水を新鮮に保つための設計でもあります。1日分も2日分も貯めてしまうと、槽の中で水が滞留して残留塩素が抜け、水質が落ちていくからです。裏を返せば、受水槽は「使いながら、その都度入れ直す」ことでバランスが成り立っている設備だということになります。だから入ってくる量が細ると、あっという間に破綻します。
水はどう入るのか|定水位弁という「普通じゃないバルブ」
受水槽への流入をコントロールしているのは、多くの場合「定水位弁(ていすいいべん)」というバルブです。名前のとおり、槽の水位を一定に保つための弁で、ふつうの仕切弁やボール弁とはまったく違う動き方をします。
構造は主弁と副弁の組み合わせです。副弁には、槽の中に浮かべたフロート(浮き玉)付きのボールタップが使われます。水位が下がるとフロートが下がって副弁が開き、パイロット管の圧力が抜けて主弁が開く。水位が上がればその逆で主弁が閉じる。この一連の動作が、制御盤も電源も使わずに成立しているのが定水位弁のうまいところです。停電しても水は入ってきます。
もうひとつ大事な役割が、ウォーターハンマーの防止です。ウォーターハンマーとは、流れていた水が急に止められたときに、水の運動エネルギーが逃げ場を失って配管を叩く現象のこと。「ガン」という衝撃音や振動が出て、ひどいと配管や継手を傷めます。容量の大きい貯水槽は流量が多いため、定水位弁を使わないと室内の水圧低下やウォーターハンマーの原因になりますが、定水位弁は内部の調整弁が緩やかに開閉するためこれを防げます。大口径の給水を「そっと止める」ための弁、と考えるとイメージしやすいと思います。
現場で起きたこと|設置20年、水位が追いつかない
実際にあった話です。設置から20年ほど経った現場で、「どうも受水槽の水位が上がりきらない」という相談を受けました。ポンプは正常、槽内も清掃済み、漏れもない。それでも使用量の多い時間帯になると水位がじりじり下がっていく。
流入量を測ってみると、50Aの給水管なのに5m³/h程度しか流れていませんでした。50Aは供給圧力にもよりますが、本来なら20m³/h以上は出る口径です。設計の4分の1以下しか入っていなかったことになります。分解してみると、定水位弁の弁の一部に錆が詰まっていました。
ここで押さえておきたいのが、流入管の口径は適当に決まっているわけではないということです。受水槽への流入管の口径は、その受水槽を4〜6時間で満水にできる口径とすることとされています。設計上「4〜6時間で満タンにできる」前提の配管が、経年で半分以下しか流せなくなっていたら、ピーク時に追いつかないのは当然です。この状態は、ある日突然「断水」という形で表面化します。
流入量は水道メーターで測れる
「うちの受水槽、ちゃんと入ってる?」を確かめるのに、特別な計測器は要りません。量水器(水道メーター)の指針を見るだけです。
メーターの文字盤には、パイロット指針が付いています。読み方はシンプルで、
- 1L の指針が1回転 → 10L
- 10L の指針が1回転 → 100L
あとは1分間に何回転するかを数えれば、そのまま流量になります。目安はこのとおりです。
| 指針の動き(1分間) | 流量 | 換算 |
|---|---|---|
| 10L 指針が1回転 | 100 L/分 | 6 m³/h |
| 10L 指針が半回転 | 50 L/分 | 3 m³/h |
| 1L 指針が1回転 | 10 L/分 | 0.6 m³/h |
流入中に測って、設計値や過去の記録と比べる。それだけで「配管のどこかが細っている」ことに気づけます。ストップウォッチ片手に1分立っていればいいので、点検のついでにやる価値は十分あります。
★プロの一捻り|槽の中はきれいなのに、水が入ってこない
ここが今回いちばん伝えたいところです。
定水位弁の直前には、必ずと言っていいほどストレーナー(ゴミ受け)が入っています。本管から流れてくる錆片や砂を受け止めて、精密な弁の中に噛み込ませないための部品です。定水位弁は主弁を動かすのに細いパイロット管を使うので、異物には本当に弱い。ストレーナーはその防波堤なわけです。
ところが実務では、このストレーナーが誰の担当でもないことがよくあります。年1回の受水槽清掃は専門業者が入りますが、契約の範囲は「槽内の清掃と消毒」。槽の外側にあるストレーナーや定水位弁は、見積書にも報告書にも出てきません。設備担当者は「業者が入ったから受水槽まわりは大丈夫」と思い、業者は「契約範囲はやりました」と言う。誰も嘘をついていないのに、10年20年と一度も開けられていないストレーナーができあがります。
その結果が「槽の中はピカピカなのに、水が入ってこない」という状態です。清掃報告書を見ても異常は書いていないので、原因究明も遠回りになります。
対策はシンプルです。受水槽の清掃を発注するときに、ストレーナーの清掃もあわせてお願いしてください。すでに業者が現場に来て、水を落として作業しているタイミングです。フタを開けてカゴを洗うだけなので、単独で呼ぶより段取りがよく、費用もかさみません。「受水槽の清掃のときに、定水位弁の手前のストレーナーも洗っておいてください」と一言添えるだけで通ります。
年1回これをやっておくと、断水の原因のかなりの部分が事前に消えます。清掃の発注書に一行足すだけの話なので、次回からでも組み込む価値はあります。
受水槽の法定管理|市水だけでも届出が必要
「うちは水道水しか使っていないから関係ない」と思われがちですが、そんなことはありません。
水道法上、水道水のみを水源とし、受水槽の有効容量の合計が10m³を超える貯水槽水道を「簡易専用水道」といい、設置者は管理基準に従った管理と、登録検査機関による検査(1年以内ごとに1回)を受ける義務があります。主な管理内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 水槽の清掃 | 1年以内ごとに1回 |
| 法定検査 | 登録検査機関による検査を1年以内ごとに1回 |
| 施設の点検 | 汚染防止のため必要な措置を随時 |
| 水の状態確認 | 色・濁り・臭い・味を日常的に確認し、異常時は水質検査 |
| 記録の保存 | 清掃・点検・検査の記録を保存(自治体の指導による) |
また、給水を開始したときは簡易専用水道給水開始報告書の提出を求めている自治体が多く、変更・廃止時にも届出が必要です。様式や提出先(保健所か水道部局か)は自治体によって違うので、管轄の窓口で確認してください。
なお、有効容量が10m³以下の場合は「小規模貯水槽水道」となり、法律上の義務ではなく自治体の条例や指導要綱にもとづく管理になります。例えば東京都中央区では、指導要綱により設置者に定期的な点検と年1回程度の清掃を呼びかけています。義務ではないぶん実際に清掃されていないケースもあるので、規模が小さい施設ほど自主管理の意識が要ります。
ひとつ補足を。検査機関の登録は、2024年4月の水道行政の移管にともなって国土交通大臣・環境大臣の登録に変わっています。古い資料には「厚生労働大臣登録」と書かれていますが、いま検査を依頼するときは現行の登録機関一覧で確認してください。
高置水槽と材質|古い施設ほど点検箇所が増える
古い施設では、受水槽から屋上の高置水槽(高架水槽)へポンプで揚水し、そこから自然流下で各階へ配る方式が残っています。この方式だと貯水槽が2つになるので、清掃も点検も2か所分。高置水槽側にもボールタップが付いているため、故障ポイントも増えます。屋上という点検しづらい場所にあることも、放置されやすい理由のひとつです。
材質はFRP製とステンレス製が代表的です。FRPは軽くて施工しやすく、価格も抑えられますが、光を通しやすいため藻の発生に注意が必要です(対策として遮光性の高いタイプが使われます)。ステンレスは耐久性が高く衛生的ですが、その分コストは上がります。どちらにしても、更新のタイミングでは槽の材質だけでなく、そもそも受水槽が要るのか(水道直結増圧方式に切り替えられないか)まで含めて考えたいところです。
まとめ
- 受水槽の有効容量は計画一日使用水量の4/10〜6/10程度が標準。半日で空になる前提でつくられている
- 流入は定水位弁が担当。主弁+副弁(ボールタップ)で、電源なしに開閉し、ウォーターハンマーも防いでいる
- 設置20年の現場では、定水位弁の弁の一部に錆が詰まり、本来20m³/h以上出る50Aの配管で5m³/hしか流れていなかった
- 流入量は水道メーターの指針を1分数えるだけで確認できる(10L指針1回転=100L)
- 定水位弁の直前のストレーナーは、年1回の槽内清掃の契約範囲に入っていないことが多い。受水槽清掃のときに、あわせて洗ってもらうよう依頼する
- 有効容量10m³超は簡易専用水道。清掃・法定検査が年1回、給水開始報告書の提出も必要
受水槽の管理は「清掃さえしていれば大丈夫」ではありません。水が入ってくる経路まで含めて一続きで見ておくと、断水という形で表面化する前に手が打てます。
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